2022/12/11 17:35
東京・渋谷で狂鉢を作陶しているMadさんにお会いしました。
約3時間、陶芸に至るまでの壮絶な半生から、代表作Babelの制作まで、ゆっくり時間をかけてお話頂きました。是非最後までお読みください。
陶芸家までの道のりを教えて下さい
東京の大田区に生まれました。母は韓国人、父は日本人のハーフです。小さい時に両親が離婚し、母に育てられました。宮城の祖母の実家に行くと、親戚がみな韓国人だった事を良く覚えています。10代の頃から少年院を2度、そして20~30代前半の殆どを刑務所で過ごしました。クソみたいな半生を過ごして、散々「人が見なくてもよい景色」を沢山見て、普通の人が言う言ドン底とはレベルが違うドン底を経験しました。刑期中、毎日腕立て伏せを500回こなすなど、身体をバッキバキに鍛えていました。
刑務所を出たのが32歳頃。後輩が勤めていた解体屋で働き、更にもう一社掛け持ちで働いていました。周りを見れば結婚し、マイホームを構え、家族を持ち、お金もある。そんな中、マイナスすぎる再スタートでした。とにかく人生出遅れていましたので、必死に毎日生きていましたね。その時に出会ったのが、総合格闘技でした。30を過ぎてから、「地下格闘技」アウトサイダーに出場し始めました。人を壊し、物を壊す(笑)そんな仕事をしていました。自分の身体も壊されていましたが…。
やがてスポンサーがついて、自分でも格闘技の興行を行うようになり始めたことがきっかけで現在はネイルサロンを渋谷で経営しています。また、格闘技を通じて僕の名前が世に出るようになり、道端で握手を求められたりするようになってきましたが、気づけば40歳過ぎて格闘技をやっていれば、若く強い選手はどんどん出てくるし、やはり動けなくなってきたり、勝てなくなってきましたね。
話は変わりますが、東日本大震災をきっかけに、災害に物資を支援したり、施設で育った虐待された経験を持つ子どもたちに格闘技興行を行ったり、ボランティア活動を行うようになりました。過去に悪いことを沢山したから…という罪滅ぼしという訳では無く、物資の大切さや人を助けたいというのが動機です。この活動を続けて12年目ですが、こうしたボランティアは続けていて、最近ですと静岡県の洪水被害が起きた際に「狂鉢」の売上の大部分を物資に換えて持ち込んだりしました。
40歳を過ぎてもリングに立ち続けましたが、やがて格闘技を引退しました。自分の生きがいでしたから、引退すれば生きがいが無くなる。新しい生きがいを見つけたいと日々思っていましたね。自分のフィジカルを活かしたパーソナルトレナーを勤めたり新しい事に挑戦しましたが、新しい生きがい、というか趣味を発見しました。それは、「植物」でした。アガベを育て始めました。
次第にアガベを輸入し、Mad plantsという名前でインスタのライブを通じて販売し始め、「アガベの輸入販売者」になりました。その頃に知り合ったお客さんが沢山アガベを購入してくれましたね。当然の流れですが、アガベを入れるカッコいい鉢を探し始め、一流の陶芸家さんの鉢が買えなかったり、プレ値で取引されていることを知りました。そこでふと、「自分で作った鉢でアガベを育てられたらシアワセだろうな…」と思うようになったのです。
2021年9月1日、ネットで買った電動ろくろと粘土で土いじりを始めました。周りからは急に陶芸を始めたので半笑いで見られていました(笑)人生において、自分でものづくりをするなんて想像していませんでしたので、菊練りや土殺しも初めて本で読み、知りました(笑)最初の一ヶ月はひたすら陶芸のYouTubeを見たり、陶芸の本で書いてあることを土で作っては再生する日々を過ごしました。陶芸の先生はYouTubeですね(笑)
気づけば、陶芸の沼にハマりはじめ、これが新しい生きがいになっていましたね…。今では、ネイルショップの経営をしながら陶芸家として活動しています。90%くらいが陶芸家として活動していて、元旦を含めてほぼ毎日作陶していますね。
狂鉢と言えばインスタライブのイメージがあります
プロの多肉植物販売者としてインスタを通じて活動は継続してましたので、陶芸を始めた様子をストーリーズなどでアップし始めたところ、嬉しいことに何件か販売依頼を頂くようになりました。当然まだまだ初心者で、綺麗な作品ではないし、器体は分厚いし、土を入れるスペースが少なすぎる作品に対して、販売して欲しいという声を頂いた事が本当に嬉しく、オーダーを受け始めるようになりました。オーダーが溜まっていき、作陶に追われる。初心者ながら、オーダーのプレッシャーを感じながら作陶する事の違和感を味わい、新規のオーダーを一旦ストップさせて頂き、作品を作り貯めてから販売しようと思いした。
2021年12月、「狂鉢Live」を初開催しました。初めて自分が作陶した植木鉢を自分で販売しました。お陰様で、多くのお客様にご購入頂きました。ここから月に2~3回、狂鉢Liveを開催し、だいたい19時から2時間~2時間半かけて、作陶した20~30鉢をオークション形式で販売しています。狂鉢Liveは多くて70名くらい、平均40名くらいの視聴者さんが訪れてくれます。オークション販売なので値が釣り上がる事もありますが、視聴者さんが価格を適正に保ってくれている印象があります。
色々、企画を考えて実施しています。購入者には狂鉢ステッカーを差し上げていて、Live購入者限定抽選では狂鉢クッションを出したり、プレゼントに植木鉢を出すこともあります。アガベや多肉・塊根植物を育てている人は基本家族に後ろめたい気持ちがあるので(笑)、お子さんがいる方には「地球グミ」を韓国から仕入れて差し上げたり、和牛セットをプレゼントしたり。今も後ろにクリスマスギフトを用意しています。
さきほどのボランティア活動の話ではないですが、こんな自分の作品を購入頂いているお客様に対して少しでも還元したり笑顔を届けたいな、と思っています。勿論、それに見合った作品を作る、というのは当然ですが。お客様の皆さんに担いでもらってここまで作陶出来たので、もっともっと上手くなりたい、そう思って我流で作陶しています!その想いと作品のクオリティーが並ばないといけない。ただ毎日ストレスフリーで本当にシアワセですね。そして是非、狂鉢Liveを見に来てくださいね!
狂鉢Liveの情報はコチラから
代表作の「Babel」を教えて下さい
コロッセオやピサの斜塔など、何か自分の植木鉢に活かせないかと思いながら、過去の人類が作った偉大な建築物を沢山見ていました。キリスト教徒でもなんでも無いんですが、巨塔「バベルの塔」を見た時にピン!と来ました(バベルの塔とは、旧約聖書の創世記に描かれた巨塔で、人類が天にも届く塔を建てようとしたので、その高慢に怒った神は言語を混乱させた上で各地に散らして完成を妨げたという逸話がある塔)。
幾つのも渡る層、掛かる窓、そして傾斜。これは植木鉢としてマッチすると思い作陶しています。OMBLEさんにもBabelを納品させて頂きましたね。
Babelの作陶手順を教えて下さい
東京・渋谷の神泉、見晴らしの良いマンションの一室で作陶しています。
土は2種類使っていて、黒土と白土を使用。釉薬によって使い分けています。土練器が無いので、丁寧に菊練りをしています。
作陶手順は一般的でして、電動ろくろで成形して、乾燥させ、削ります。Babelは複数の横のレーンと縦の鎬によって構成されているので、乾燥し始める下から順番に削っていきます。削れるだけ削ってから、乾燥待ちの間に再び菊練りし始めて成形し始めます。成形すると、先ほど削っていた器体が乾き始めているので再び削って、最後に高台を作って上下を返し、口元を削り取って削りが完了となります。
Babelはとにかく手がかかっていて、普通のものだと10層くらいあって、1層につき50~60くらい鎬が入っているので合計するととんでもない数になりますね…。Babelを作る時はBabelモードに入って、とにかく集中して作っています。
素焼きは、2つある電気窯の内の1つを使っています。12時間毎、1日2回転させています。700℃まで上げた後、500℃くらいになったら少しドアを開けて冷まし、250℃位で男らしくオープン(笑)!すかさず次に素焼きする作品を入れてスイッチを押す感じです。
取り出した鉢に釉薬を掛けます。現在は焼締めを含めて6色展開しています。青銅、ボルドー、金メタ、白、青を使っています。黒も稀ですが使っています。バケツにチャッポンとつけるか、柄杓を使って施釉しています。
本焼きも電気窯で行います。サイズにもよりますが、多くて4つくらいしか一度で焼けません。1230℃まで上げて、400℃くらいまで下がるとドアを開けて冷まし、これも250℃で男らしくオープンします!取り出して後処理をして完成です!
狂鉢のこだわりがありましたら教えて下さい
厚みだと思います。厚すぎる鉢もダメなんですけど、土がきちんと入るスペースを作りつつ、とにかく1年間通じて根の成長を促すことを大前提に成形しています。特に下の方に土を残して成形しているんですけど、根は下に広がって伸びるので下部が少しでも冷えすぎないように少し厚く土を残して作っています。
自分もこのように狂鉢を使ってコレクションを育てているんですが、お客様もたくさん「狂鉢にしてから根の成長がめちゃくちゃ早くなった」というお声を頂いています。是非、狂鉢と普通の陶器鉢で並行して育てて頂きたいですね、違いが分かって頂けると思います。
ただ単にカッコいい鉢を作ってしまうと飾り物になってしまうというイメージがある。僕の場合はとにかく植物がよく育つ事を前提に考えて作っているので、そこの部分のこだわりは絶対ですね。ただ、アガベの販売者をやっていたからアガベだけを植えて欲しいってのは全く無くて、多肉でも塊根でも、ご自分の好きな植物を狂鉢に合わせて植えて頂きたいですね。
最後に身長・サイズ・得意技を教えて下さい(笑)
170センチ90キロ(かなりムキムキでデカいです…)、左フックですね(笑)右ローも得意でしたよ。
OMBLE:最後までお読み頂きまして有難うございました。わかり易く、丁寧に、そして力強くお話頂いたMadさん。ランチに鰻までご馳走頂き、狂鉢のプレゼントも頂きました。私にとって、新しく渋谷に出来た「強すぎるお兄さん」というイメージがぴったりな優しい方です。狂鉢Liveにご参加頂き、狂鉢を使って、アガベなどの植物を是非育てて下さい!